あれ以来香也子は、鏡に向かうたびに、恵理子の顔と見くらべるような思いで化粧してきた。が、そのたびに苦い敗北感を味わうのだ。黒い目の輝きは姉には負けないと思う。やや小さめの唇も、薄いが形がよいと思う。が、どこかが姉に及ばない。それが香也子にはくやしいのだ。香也子はクレンジングクリームのふたをとると、人さし指と中指で、たっぷりとそれをすくい、額、頬、鼻、あごに、点々とつけ、思いきりよく化粧を落としはじめた。白いガーゼにべっとりとファウンデーションの色がつく。
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