若葉となったポプラの木立越しに向こう岸を見た恵理子は、淡い失望を感じて再びミシンの前にすわった。スーツの裾をまつりながら、恵理子は、野点の日以来、向こう岸に姿を見せなくなった青年のことを思う。もうあれから、ひと月以上は過ぎた。窓から眺めるたびに、恵理子は向こう岸に青年の姿を期待した。が、なぜか、あのギターを持った姿は現れなかった。思いがけなく茶会で会った時、恵理子は自分でも驚くほど胸がときめいた。わざわざ野点の席につらなってくれた青年を思って、その夜、恵理子は眠ることができなかった。
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