『果て遠き丘』[ 影法師 ](七)25 容一がそういった時、……

容一がそういった時、幼い頃、散歩に手を引いてくれた父の手の感触が、ふっと思い出された。それは親たちの離婚によって、父から遠ざかっていた恵理子の心を昔に戻すものであった。父と思えなかった人が、父に思われた。他に女をつくった不潔な男性であった筈だが、いまは血の通う分身に思われた。それは、自分の心の底にかくされた願いをいい当て、それを受けいれてくれたからかもしれない。ともに住んでいる母でさえ、一度もいったことのない自分の夢を、この父は、遠くに住んでいながら、わかってくれた。そんな思いだった。

〈作品本文の凡例〉https://www.miura-text.com/?p=2463

関連記事

  1. 『果て遠き丘』[ 春の日 ](三)63 と、さっさとテラスの……

  2. 『氷点』[ 敵 ]48 村井のたたきつけるよ…………

  3. 『果て遠き丘』[ 蛙の声 ](四)17 「いいんですか、はい……

  4. 『果て遠き丘』[ 春の日 ](十)35 「だって、そうじゃあ……

  5. 『果て遠き丘』[ 影法師 ](八)68 「あら、知らないの?……

  6. 『塩狩峠』[ 母 ]55 貞行はそういって信夫……

カテゴリー

アーカイブ