恵理子は今日、朝からそわそわしていた。西島広之と会うということが、こんなにも自分の全生活を突き動かすのかと思うと、少し恐ろしいような気がした。いままでと全くちがった生活が待っているような恐れを感じたのだ。が、それはそれとして、なんとしてでも西島に会いたかった。そのためには、口実を設けて外出しなければならない。その口実に、恵理子は仕立物を届けることを思いたった。だから、西島から、あの木片をもらった一昨日以来、ちょうど預かっていたワンピースを縫うために、恵理子は懸命だった。恵理子には、全くの嘘はつけない。ワンピースさえできあがれば、確かに届けるために外出するのだから、嘘にはならない。そう思いながらも、やはりうしろめたかった。
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