フィアンセの金井政夫のためにつくったパウンドケーキを、香也子が持ち出したといって、怒っている章子を思うと、香也子はうれしくなった。いつも控えめに、おだやかに、なんの表情も見せない章子を、香也子は憎んでいた。それは章子が表情を顔に表さないからか、母の扶代といつもむつまじく暮らしているからか、香也子はわからない。その両方に香也子は腹を立てているのかもしれない。とにかく、人を怒らせることは、香也子にとって楽しいゲームであった。
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